より効果的な学会発表への提言  小嶋 稔(「日本地球化学会ニュース」No.163, p.21-22より転載)


今秋は一ヶ月の間に山形での地球化学会それにOxfordでのGoldschmidt Conference と二つの学会に出席する機会を得ました。規模の面では後者がやや大きいとは言え,カバーする学問分野そして発表論文の質の点ではほぼ似た様なものでした。しかし論文の発表効果の点では,残念ながらわが地球化学会は,後者に比べ概して見劣りするのを認めざるを得ませんでした。折角の研究成果を聴衆に適切に伝えられないとしたら,なんの為の発表か?,と言う事になってしまいます。しかし研究成果と異なり,発表効果はちょっとしたプレゼンテーションの手直しで大幅に改善が期待されます。発表者そして参加者共々,講演会参加の利益を最大限に享受できればとの願いで筆を取りました。

まず第一に留意すべきは,多くの講演がひしめきあっている発表会では,制限時間(質問時間を差し引いた後の)内に講演を終了することが至上命令だ,と言う事です。

地球化学会を例にとるなら15分の割り当て時間から質問と講演者交代に要する時間を3分とみて最大12分が絶対限度と考えるべきです。制限時間のオーバーは次の講演者の権利(時間)を奪うものであることを認識すべきです。また質問時間まで食い込んだ講演は,自己の研究に対して他からの批判を受けると言う,講演発表の最も大きな利益を自ら逃がしてしまう事になってしまう事に留意してください。さらに,時間オーバーの講演は,往々にして内容の貧困を時間でごまかす方策とも受け取られ,講演の内容にまでネガチブな印象を与えかねません。要約しますと,時間オーバーの講演は,講演者自身にとりマイナスだけでプラスになる点は何一つない,と言うことです。

では如何にしたら限られた時間内でより効果的な発表が出来るか,と言う事になりますが,第一に,12分程度の時間で研究結果の全てを話すことは不可能と言うことを認識することです。経験の豊かな研究者でもOHP(またはスライド)で10枚と言うのが限度でしょう。講演では従って重点項目に限り,且つ重点項目でも詳細な説明はさけるべきです。講演で自分の研究へ聴衆の興味を引ければ,これだけで講演の目的をほぼ達成した,と考えるべきです。そのあとの更に突っ込んだデスカッションは当事者同士そして論文の形でなされるべきでしょう。

そして限られた時間内でより効果的な講演を行う為になにより大切なのは,練習です。私は今でも国際会議(英語で話す)の場合は2週間程かけてストップウオッチを手に数十回練習致します。日本語の講演の場合でも,少なくとも2~3回は時間を測って話してみます。

パラレルセッションの場合,講演時間をスケジュール通り進めること無しには,他のセッションへの移動が不可能になってしまいます。参加費を払った一般聴衆の権利を守ってやることも座長の重要な責任の一つでしょう。この点も込めて座長の厳正なスケジュールの進行が望まれます。

最後に講演会をより有意義なものにするため,聴衆の側への要望も書いておきます。講演会に参加して受けるもう一つの利益は,講演者と質問者のやりとりを見聞する点にあります。良い質問は無論講演者にとって有益であるのみならず,他の聴衆にも問題点をよりクリアーに示すことになり,理解を助ける利点があります。しかしこのためには質問も良く的をしぼることが必要です。真剣勝負のやり取りのような質疑応答は,講演会をさらに生き生きしたものとすることでしょう。

2000年10月2日。

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