Research, BGG, NU
生物地球化学について
  生物(生命)は、光合成や呼吸、窒素固定などの生物活動を通じて、地球環境に対して多大な影響を与えています。現在の地球環境は、生物活動の消長によって 左右されていると言っても過言ではないでしょう。生物は多くの「種」から構成されており、生物学ではその形態や遺伝子を用いて詳細に分類していますが、生 物活動が地球環境に与える影響を評価する時には、種による区分けは必ずしも重要ではありません。一方、栄養塩(リンや窒素、ケイ素の化合物)に富んだ水が 流入すると珪藻と総称される植物プランクトンの大繁殖が起きたり、逆に栄養塩が不足してくると渦鞭毛藻と総称される植物プランクトンに主役が変わったり、 さらに栄養塩の供給が完全に停止するとやがてあらゆる植物プランクトンがいなくなってしまったりするように、むしろ特定の化学分子の地球環境下における挙 動を把握した方が、生物活動の理解(特に地球環境に与える影響の定量的な理解)に有用になることも珍しくありません。
                      
   そこで生物活動と関連性が大きい化学分子の地球上での挙動を把握することで、生物活動を定量的に理解しようとするのが、「生物地球化学」という学問です。 ここでは、形態よりも、生物間の化学的な機能の差異(例えば、炭酸塩の殻を作る生物か、それとも珪酸塩の殻を作る生物か、など)の方が重要になります。ま たそれを評価するには、生物学的な観測や知識よりも、化学的な観測や知識の方が有用になることも多くあります。生物学と比べるとはるかに小さな学問分野で すが、地球環境と生物の関係を考える上では、とても重要な学問です。
                     

「同位体」指標について
 生 物地球化学的アプローチで地球環境に与える生物の影響を理解するためには、これに関係する数多くの「分子」について、それがどこからやってきて、どこに消 えていくのか明らかにすること(もしくは、明らかにすることが出来るようになること)が必要です。しかし現実の地球上では、たとえ同じ分子式を持つ分子で あっても、それが生成に至るプロセスや、それが消滅するプロセスは多岐に渡るのが普通なので、この問いに答えを見出すのは容易ではありません。
 そこで我々は「安定同位体」という指標に着目しています。例えば「二酸化炭素」という分子の分子式は「CO2」 であり、それはどのような過程を経て生成された「二酸化炭素」でも同じです。しかし分子一個あたりの精密な重さは、それを誰が出したかでわずかに異なりま す。理由は各構成元素(炭素や酸素など)は重さが異なる複数種類の「安定同位体」という基本単位から成り立っており、しかもその相対比が発生源毎に微妙に 違うからです。

  

 例えば私達が呼吸して出すCO2は、土壌中で微生物が呼吸して出すCO2と 比べると、分子一個あたりの重さが0.0002%だけ軽いのです。このような放出源毎の重さの違いを「指紋」として利用することで、放出源を特定する指標 として活用することが出来ます。指標としては指紋やDNAほど一般的な段階には達していませんが、私たちはその将来性に期待して研究を進めていますし、一 部では既に大きな成果を挙げつつあります。
  
こ れまで私たちの研究グループでは、多くの分子について分子毎の重さの僅かな変動を、微少量でしかも短時間で計測する手法の開発に力を注いできました。二酸化炭素 や、メタン、軽炭化水素、一酸化炭素、亜酸化窒素、硝酸、水素といった分子の測定については、その技術において世界一を自負しています。そして大気や海洋 や海底堆積物中、さらに地殻や地殻内を流動する流体中に含まれる様々な分子について、「安定同位体」を指標として、それが何処からどういうプロセスを経て そこにやってきたのか、そしてどこへ消えていくのか解析しています。またこのような解析に利用するために、様々な放出源から出てくる時に各分子が持つ重さ の平均値を決めておくような作業にも精力的に取り組んでいます。
開発した同位体組成の計測システム
ま た世に自信を持ってデータを送り出すために、同位体定量に使用するような試料は極力自らの手で採取することを心がけています。このため観測船、掘削船、潜 水船、航空機などの最新観測システムも積極的に用いて試料を採取しており、試料採取機器の開発に自ら取り組むこともあります。また利用する指標は同位体に 限定したわけでは無く、場合によっては目的や対象となる物質の性質に合わせて、多様な分析手法を自らの手で開発しています。








気体分子の重要性について

上 で述べたように、私たちが同位体測定などの研究対象として取り扱う物質の多くが、「気体分子」です。「気体分子」とは、私たちが暮らす地球の表層の環境下 で、気体として存在している分子のことです。希ガス類を除くと、炭素・水素・酸素・窒素の化合物であることが多く、たまに硫黄やハロゲンを含むものも存在 していますが、それ以外の元素が含まれていることは滅多にありません。

 

多 くの場合、この気体分子を目視することは出来ません。そのせいか、気体分子はその存在を忘れ去られることが多い物質です。例えば「全岩化学組成」という言 葉があります。本当は対象となっている岩石中に含まる全ての元素の組成を意味しているはずなのですが、実際は固体の骨格部分を構成する元素だけが「全岩化 学組成」に認定されていて、岩石中の気相部分を構成する元素や、岩石中の固相部分に溶存する気体分子を構成する元素が「全岩化学組成」に組み入れられるさ れることは滅多にありません。一般人にはもちろんですが、研究者にさえ無視されるのが気体分子の特徴の一つです。

 

し かしこの気体分子には、大気圏に出て行く(=大気分子になれる)という、大部分の固体物質には真似出来ない重要な性質があります。大気分子になると、例え それが微量であっても、地球放射赤外線の吸収などを通じて、地球環境に対して絶大な影響力を持つことが出来るようになる分子が多数存在します。例えば、二 酸化炭素・水・メタン・一酸化炭素・窒素酸化物・ハロゲン化炭化水素・酸素・オゾン・水素などがその代表格です。その存在量の変動は、例えそれがほんの僅 かでも、地球の環境を激変させるポテンシャルを持っています。これが私たちが気体分子に着目する理由の一つです。可視光線しか見えない人間からは無視され る気体分子ですが、赤外線を吸収・放出している地球にはとても重要な存在だと思っています。

  

ま たもう一つ、気体分子の重要な性質に、生命活動と密接にリンクしているという点が挙げられます。地球に登場した光合成生物は、大気中の二酸化炭素分子を劇 的に減らし、代わりに酸素分子を増やしました。また地球の生命の大部分を占める微生物の多くは、気体分子を取り込み、これを他の気体分子に変換することで 生命活動のエネルギー源としています。さらに近年の人類の文明活動は、大気中に大量の二酸化炭素やメタンを排出しています。つまり、気体分子の消費と生成 こそが「生命活動」と考えることも出来るのです。従って気体分子に着目することで、生命活動の質や量を明らかにしてくことが出来ます。例えば、ある極限的 な環境下で、生命活動が存在しているかいないか、さらに存在している場合には、それがどの程度の規模なのかを判定出来ます。


気 体分子は、固体や液体などのより大きな分子をその前駆体としています。そして、大気中で、水圏中で、あるいは地圏中で様々に分子の形を変えて動き回りま す。また先に述べたように、その生成・消滅に、(微)生物が関係していることが多いのも重要な特徴の一つです。つまり気体分子を研究する場合には、空も海 も海底も陸も川も森も湖も都市も水田も火山も研究フィールドとする必要があります。また広範は知識も必要になります。決して楽な研究ではありません。しか し挑戦しがいのある研究と思って挑戦しています。

現在、文部科学省の科研費や環境省の地球環境研究総合推進費をはじめとした多くのプロジェクトの支援を受けて研究を進めており、次世代の中核研究として多くの方々に期待されています。

研究テーマについて

具体的には、以下に示すような研究を展開しています。
  ●同位体を指標に用いた生物・生態学的研究
  ●大気ー海洋ー陸域における各種微量気体分子の起源や挙動に関する研究
  ●海洋フロンティア領域(深海底の熱水系やメタン湧出系、泥火山など)の開拓研究
  ●極限環境下における始源的微生物活動に関する研究
  ●同位体質量分析をはじめとした新規化学分析システムの開発研究


もっ と具体的な研究内容を知りたい方は、以下に示した総説を参考にして下さい。また、直接面談して詳しい話を聞きたい方や相談のある方は、遠慮なく中川や角皆までご連絡下さい。連絡先はフレームメニューのcontact内にあります。特に進学 先として考えている方には、よく話を聞いてから、納得して決めることをお薦めします。もし進学した場合は、多くの時間を研究室で過ごすことになるので、 大学や学部・学科を選択するより、はるかに重大な決断と思います。
ま た分析に用いる機器(facilities)、論文になった研究成果(publications)、学会等で発表した研究成果 (presentations)、最近の卒論・修論・博論のタイトル(Thesis)、さらに研究やフィールドの様子を写した写真(photos)など、 より詳細に興味のある方は左の各リンクを参考にして下さい。photosでは、フィールドの写真と一緒に、簡単な研究紹介も載せています。また、


生物地球化学グループの研究紹介(学術誌に公表した総説など)
「同位体環境科学 ―第3講 安定同位体比によるプロセス解析―」(2014年に学術誌「大気環境学会誌」に発表した同位体組成を指標に用いた環境科学の解析手法に関する和文総説)link
「HIReTS 法を用いた火山噴気の遠隔温度測定: 薩摩硫黄島における検証」 (2013年に学術誌「火山」に発表した同位体平衡を用いた遠隔温度測定法に関する解説的和文論文) link
「三酸素同位体組成を指標に用いた大気沈着窒素ー森林生態系間相互作用の定量的評価法」(2010年に学術誌「低温科学」に発表した硝酸の三酸素同位体組成を指標に用いた窒素循環解析手法に関する和文総説)link
熊野灘の泥の山」2003年に北海道大学広報誌に執筆した研究紹介) link
海洋表層・大気下層の物質循環リンケージ」(生物地球化学グループが遂行していた特定領域研究プロジェクトの研究紹介) link
「想い出のウッズホールをふたたび」(2012年に環境学研究科Webサイトに掲載された角皆の自己紹介) link
「地球表層環境の物質循環像をとらえる」(2014年に環境学研究科Webサイトに掲載された中川の自己紹介)link
「大学院生による研究室紹介」 (北大時代、2006年頃の日本地球化学会ニュースレターに掲載された大学院生による研究室紹介link
「研究室の用語集」(北大時代、2002年頃にOB館脇氏が編纂) link





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