氏名 |
亀山 宗彦
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論文題目 |
溶存気体成分を指標に用いた海底湧出地下水の地球化学的研究
(Geochemical studies on submarine groundwater discharges using methane and nitrous oxide as tracers)
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論文要旨 |
沿岸域での海底地下水湧出は、陸上と海洋を結ぶ水循環を考える上で重要であり、また栄養塩などの物質を海洋亜表層に直接供給することから、それは化学物
質の循環という観点でも近年注目されている。このような海底湧出地下水による水や化学物質の循環に
ついて明らかにするために、海底湧出水の起源となる地下水の陸上における流動過程を探ることや地下水の流動過程での溶存物質の
変化を明らかにすることが必要と考えられる。
本研究では地下水の酸化還元状態を鋭敏に反映すると考えられるメタンと亜酸化窒素に着目し、これらを指標として豊富な海底地
下水湧出が確認されている富山県黒部川・片貝川扇状地沿岸、および海底地下水湧出が予想される静岡県安倍川扇状地沿岸におい
て、海底湧出水の起源などについて考察をおこなった。黒部川・片貝川の両扇状地の沿岸域では2002年4月から約1ヵ月半ごとに採水
をおこない、水深8mから33mの海底湧出水とその周辺海水、さらに陸上地下水および河川水を採取した。また安倍川扇状地の沿岸域で
も同様に沿岸域の海水、陸上地下水および河川水を採取し、黒部川・片貝川両扇状地と比較をおこなった。採取したサンプルはメタ
ン濃度およびその炭素同位体比、亜酸化窒素の濃度およびその窒素、酸素同位体比の測定をおこなった。
富山湾地域においては海底湧出水と一部の陸上地下水のメタンは、大気平衡水(約3 nmol/kg, -47
‰PDB)に比べて濃度は低く(0.5- 2.5 nmol/kg)、炭素同位体比は大部分が高かった(-50--20
‰PDB)。一方亜酸化窒素は大気平衡水(約7 nmol/kg, δ15N = 約+7 ‰AIR, δ18O = 約+45 ‰SMOW)に比べ濃度が高く(>23 nmol/kg)、窒素・酸素同位体比は低い値(δ15N < +2 ‰AIR, δ18O
< +42
‰SMOW)を示すことがわかった。海底湧出水や一部の陸上地下水は、大気から遮断された地下水中で強い還元環境になる前段階の酸化還元状態、すなわち
メタン生成は起きずむしろ大気起源メタンの酸化が続き、亜酸化窒素は硝化により生成する程度の酸化的な状態で帯水層を通り抜け
ていることを示唆している。これまで報告されている海外の海底湧出水は、有機物が豊富で還元的な堆積物中を通って海へ供給され
るためメタン濃度が高いことが一般的であった。それに対し、本地域の海底湧出水の溶存気体成分の特徴はまったく異なることから、海外の海底湧出水に比べて
滞留している帯水層中には有機物が少なく、または地下水の滞留時間も短いと推定できる。また、メタン・亜酸化窒素の濃度プロファイルから陸上地下水の系統
分けをおこない流動経路を推測した。その結果、片貝川扇状地における海底湧出水は片貝川に沿った扇状地北東の陸上地下水と特徴が似ており、河川に沿った地
下を滞留して海へ供給されたと考えられる。
一方、安倍川扇状地の陸上地下水中のメタンはすべての地下水試料において大気平衡水よりも濃度が高い(>4 nmol/kg:平均7.6× 103
nmol/kg)。これは同地域の地下水がどれも強い還元環境にあり、富山湾地域の陸上地下水とは異なる特徴をもつことがわかっ
た。つまり、安倍川扇状地の陸上地下水の酸化還元状態はこれまで報告された海外の海底湧出水に近いことが明らかになった。このため、もし海底湧出水が存在
すればそれはメタン濃度が高いことが推測され、湧出地点に近い海水中には濃度異常が観測されること
が予想された。しかし、本研究で採取した海水中のメタン濃度分布に特に異常はみられず、本研究で海水を採取した地点での海底地下水の湧出の可能性は低いこ
とがわかった。
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